東京について考える『夜空はいつでも最高密度の青色だ』感想/ネタバレ

『川の底からこんにちは』『舟を編む』の石井裕也監督が、注目の詩人・最果タヒの同名詩集をもとに、都会の片隅で孤独を抱えて生きる現代の若い男女の繊細な恋愛模様を描き出した作品。

ヒロイン・美香役には、石橋凌と原田美枝子の次女で本作が映画初主演となる石橋静河を抜擢していて、『ぼくたちの家族』でも石井監督と組んだ池松壮亮が慎二役を演じています。

詩集を元にした映画ということでそれがどんな形を成しているのかとても気になっていた作品であり、その思いは予告編を見てより一層強まるものでもありました。

拝見してみると詩集という形を的確に映画に落とし込んでいて、ここ最近の石井裕也監督作品の中ではひと際挑戦的な作品に仕上がっていたように感じました。

あらすじ

看護師をしながら夜はガールズバーで働く美香は、言葉にできない不安や孤独を抱えつつ毎日をやり過ごしている。一方、工事現場で日雇いの仕事をしている慎二は、常に死の気配を感じながらも希望を求めてひたむきに生きていた。排他的な東京での生活にそれぞれ居心地の悪さを感じていた2人は、ある日偶然出会い、心を通わせていく。

スタッフ

監督
石井裕也
原作
最果タヒ
脚本
石井裕也
撮影
鎌苅洋一
編集
普嶋信一
エンディング曲
The Mirraz

キャスト

  • 石橋静河 美香
  • 池松壮亮 慎二
  • 松田龍平 智之
  • 市川実日子 美香の母
  • 田中哲司 岩下
  • 佐藤玲 玲
  • 三浦貴大 牧田
  • ポール・マグサリン アンドレス

作品データ

製作年 2017年
製作国 日本
配給 東京テアトル、リトルモア
上映時間 108分

東京の映画

この映画が東京というものを描いているのかというと正直言ってあまり描けてはいないように感じました。

例えばバス停での待ち時間にみんなスマホをいじっているだとか、売れる気配が微塵も感じられない路上ミュージシャンが毎度歌っているだとか、安い居酒屋にしょうもない男女が飲んで騒いでいるとか。

どこかで観たことあるような形式的な描写に終始してしまっていたように感じました。

それでもなぜかこの映画は僕の心に「東京の映画」として刺さるのです。

それがなぜなのかずっと考えています。
東京感で言えばちょっと前にフジテレビで放送された二階堂ふみと水曜日のカンパネラのコムアイ主演によるワンカットドラマ『トーキョーミッドナイトラン』の方が渋谷の街が映っているし、

アニメ映画『バケモノの子』の方が渋谷のセンター街(現バスケットボールストリート)を丁寧に描いていたと思います。
その点本作は中心部を避けて撮影しているとしか思えないようなロケーションをしていたして???と思わないでもないです。

でも肝心なのは見てくれや景観ではなく心なのであるとでもいうように東京に住まう人の心を描いているような気がするのです。

とりわけ石橋静河さん演じる美香にその東京の心が映し撮られていたように感じました。

僕もかれこれ東京に9年ほど住んでいて、今は東京から離れている身なのですが、

東京独特の孤独感を孕んでいる感覚がとても分かりました。

それは共感などという生易しい感覚ではなく、肌感覚でわかるそんなものでした。
マツコ・デラックスが最近テレビで言っていたのですが、

「東京になんか出てこなくていい。住んでしまうと東京の良さが見えなくなる」

観ながらそんな言葉を思い出していました。

そんな東京に慣れ切ってしまっている人。それがこの映画の主人公たちです。

キャストの良さ

本作のキャスティングは石井作品常連の池松壮亮や松田龍平。

さらに田中哲司(とても可愛かった)といったベテランに加え市川実日子、三浦貴大などが脇を固めています。

そんな盤石のキャスティングの中で圧倒的な魅力を放っていたのが石橋静河でした。

彼女は石橋凌、原田美枝子の娘ということで見る前は「また2世か…。」と思ってしまっていました。

『PARKS』でも彼女を見ていますが特に大きな印象は受けなかったのでそれがさらに不安に拍車をかけていました。

しかし見て見るとそんな不安を一気に払しょくする存在感。

「あぁ、この娘は映画に愛されている」と思わずにはいられないほどでした。

彼女を見るだけでもこの映画には十分な価値がある。僕はそう思いますし、

彼女が広く発見されるきっかけになる映画がこの『夜空はいつでも最高密度の青色だ』という作品で良かったと思います。

エンディングテーマ「NEW WORLD」

この映画の最後にエンドロールと一緒に流れる楽曲があります。

それが予告でも流れているエンディングテーマ The Mirrazの「NEW WORLD」という楽曲です。

このエンドロールが格別に素晴らしいと僕は思いました。

この「NEW WORLD」という楽曲はよくよく聞くと近年の邦楽事情を憂いた曲なのですが、

パッと聞いただけではなにを歌っているかはさっぱりわからない。

しかもかなりのハイテンポと歌詞の凝縮加減なのです。

その楽曲が東京の風景とともに流れていくエンドロールがこの映画にとても合っているように感じて震えました。

久しぶりに映画に合った楽曲をしっかり使って作られたエンドロールを見た気がしました。

とても沁みました。ありがとうございます。

まとめ

この映画の中で美香は「誰かが誰かを求めることは酷くばかばかしいことだ」と言います。

「動物園の檻の中のライオンが同じところをぐるぐる回るのはそうしてないと狂ってしまうからなんだって。恋愛をするなんてそれと同じじゃない!」と。

ただそんなことを言う美香でさえも誰かを必要としてしまう。

そうしないとこの孤独にまみれた東京の中では狂ってしまうから。

そうやって生きていくことがこの街を生き抜く術なんだとこの映画はそう言っているように感じました。

でもその陳腐で語りつくされたような結末もきっとそんなにばかばかしいことではないのだと改めて教えてくれたような気がします。

ぜひより多くの人にこの感覚に触れていただきたいと思います。

今年のこれまでの邦画群の中では屈指の作品なのではないかと個人的には思います。

おすすめ度

☆8/10

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