カメラに映るということ 『息の跡』感想/ネタバレ

あらすじ

東日本大震災の津波により流されてしまった岩手県陸前高田市の住宅兼店舗の種苗店を自力で立て直し、営業を再開した佐藤貞一さんを追ったドキュメンタリー。津波で住宅兼店舗を流されてしまった佐藤さんは自力でプレハブを建て、種苗店の営業を再開した。看板は手書き、仕事道具も手作りで、水は手掘りした井戸からポンプで汲みあげる。佐藤さんは、種苗店を営む一方で、自身の被災体験を独学で習得した英語でつづった本を自費出版し、中国語やスペイン語での執筆にも挑戦。さらに、地域の津波被害の歴史を調査し、過去の文献に書かれた内容が正しいものなのかを自力で検証していく。

スタッフ

監督
小森はるか
プロデューサー
長倉徳生
秦岳志
撮影
小森はるか
編集
小森はるか
秦岳志

作品データ

製作年 2016年
製作国 日本
配給 東風
上映時間 93分

カメラに映し撮られる勇気

この映画を観ながら震災を描いたドキュメンタリー映画は数あれど、この映画の主役とも言える佐藤貞一さんほどカメラに映し撮られる勇気を持っている人は今まで見たことなかったかもしれないなと思っていました。

カメラというのは時として凶暴なものになり得る危険性を孕んでいて、それは特にドキュメンタリーという製作方法によって姿を現すことが多いです。

しかもそれが震災のようなとてもデリケートな題材を扱ったものであるとなると暴力性を排除するのは至難の業だと言えると思います。

しかし、この作品中の佐藤さんは元々震災についての本を独自に勉強した英語やその他の言語で書いた本を自費で出版しており、

後世に「津波」を伝えようとする意志を持っている方だったということが大きく影響しているのかとは思いますが、

伝える勇気」を持っている方でした。

そのおかげというか、だからこそ小森監督はこの映画の「主演」に彼を据えたのだと思うのですが、

とても心に残るドキュメンタリー映画だったと思います。

先を見据える力

佐藤さんはとてもパワフルな人で冒頭からこの椅子に座りながら自分が英語で書いた本を大きい&いい声で音読していたりします。

最初は少しパフォーマンスじみて感じられるその光景も見ていくうちに全く嘘のないものとして見ることが出来ます。

人は誰しも演じながら生きていて、特にカメラを向けられるとその色合いは強まります。

しかし、この佐藤さんには演じようとする確かな意志があるように僕には感じられました。

「表現欲求」という言い方が正しいとは思えませんが、佐藤さんには伝えたいことが確実にあって、

というより東日本大震災によって生まれてしまって、それを伝えなくてはならないという使命があるのです。

その表現方法が常々書き続けている本であろうと小森さんを通じてこの度公開されたこの映画であっても全くかまわなかったんだと思います。

そして、こうして映画として僕のもとには届いたわけです。

佐藤さんが監督の小森さんに向けて語る言葉の数々は小森さんのさらに先のこの作品を見ている人間にダイレクトで届いてくるような不思議な感覚がありました。

佐藤さんの言葉にはその先を見据えた力が宿っているように感じました。

僕は英語が分かりませんが、佐藤さんが書いた本の中にもきっと同様の力が宿っているんだと思います。

いつか読んでみたいです。

撮影期間は3年半ほどあったようですが、その中で佐藤さんは一度も涙を流すことはなかったんだそうです。

でも佐藤さん曰く「1人では何度も泣いた」んだそうです。

震災によって佐藤さんの人生は大きく変わってしまった。

いや、佐藤さんだけでなく多くの人々の人生が変わってしまった。

そのことはもう変わらないけどそれを伝えることでこれからを変えることが出来る。

この映画にはそんな想いで必死に生きた佐藤さんと小森監督の「息の跡」が確かに刻まれていると思います。

(本当に素敵なタイトルだと思う。)

変わることを信じて残し続ける佐藤さんや小森監督の活動には心の底から敬意を表します。

おすすめ度

☆8/10

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